100年後の映画館のために

映画館元副支配人による映画と映画館をめぐるインタビューの記録

2017-08

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映画は所有できない(井土紀州さん)

今回は「行旅死亡人」の初日舞台挨拶でジャック&ベティに来館した
井土紀州さんへのインタビューです。
残念ながら映画は1週間で公開が終ってしまい、掲載が間に合いませんでした。。。

井土さんは、90年代からインディペンデント映画の制作を始め、
瀬々敬久監督とのピンク映画の仕事や、映画マニアが注目する数々の作品を
作ってきた方。

映画について考え続けているからこそ言える、
深みのある言葉の数々を聞くことができました。

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第5回:井土紀州さん(映画監督)

★ピンク映画の脚本から学んだ
Q:まず、監督が映画の世界に入っていったきっかけを教えていた
だけますか?
井土:ぼくは三重県の辺境の出身なんですが、子供の頃には田舎町
にも映画館がありました。週末になると親父はパチンコに行きたく
なって、そうすると、子供を映画館に連れて行くという口実作って
行くわけですね。で、ぼくを映画館に放り込んでおいて、自分は隣
でパチンコやってて(笑) だから、小さい頃から一人で映画を観て
たんですね。
 そのとき観た映画で今でも忘れられないのが「ゴジラ対へドラ」
へドラのあの赤い眼。ほんと怖くて、もう早く親が迎えに来てくれ
ないかと思いながら観てました。あの映画の印象が、スクリーンと
自分との最初の出会いだったと思います。
 その後、小学生の時は角川や東映の映画なんかを観たり、普通に
友達と行ったり、時間つぶしだったり、高校生くらいになるとデー
トのときに観にいったり、そんな感じで映画館にはよく行っていま
した。で、女の子と映画に行こうということになりまして…こんな
プライベートな話でいいんですか?

Q:ええ、どうぞ続けてください。
井土:当時、フランシス・フォード・コッポラが好きで、ちょうど
「コットンクラブ」がかかっていたので、女の子と観にいくことに
しました。ところが、ドタキャンされてしまったんですね。しょう
がないから一人で観に行くことになったんです。田舎の映画館です
から、2本立て上映で、そのとき同時上映されていたのが、ヴィム
・ヴェンダース
の「パリ、テキサス」でした。
 これがぼくにとって初めてのヨーロッパ映画だったんですが、異
様な違和感を覚えたんです。いままで観てきたハリウッド映画なん
かと比べて、なんて展開がたるい映画なんだろう、なんなんだこれ
と思ってイライラしながら観てたんです。2本目に「コットンクラ
ブ」観て、スッキリして家に帰りました(笑)
 でも、家に帰って夜寝る前とか次の日になっても、「パリ、テキ
サス」の映像や音楽が、なぜか頭から離れなくて、何なんだこれ、
という違和感がずっとありました。それが高校二年のときでした。



左から、長宗我部陽子さん、阿久沢麗加さん、井土紀州さん、藤堂海さん
 その後、上京して、当時三鷹にあった「三鷹オスカー」という劇
場で、再び観たんです。そしたら、これはスゴイ映画なんじゃない
かと。ちょうどその頃、ジム・ジャームッシュの「ストレンジャー
・ザン・パラダイス」とか、ああいうロードムービーというものが
たくさんでてきた時代で、これらを観て映画にのめりこんでいきま
した。
 もう一つのきっかけは、ATGの映画と日活ロマンポルノ。悶々
とした青春を描いた作品、例えば「祭りの準備」とか「十九歳の地
図」
といった作品を観て、ちょうど思春期だった自分にとって、身
近なものと感じられたんですね。それで、あ、これ自分でもできる
んじゃないか、やってみたいなと思ったんです。

Q:その後、自主制作映画を経て、ピンク映画の脚本も手がけるよ
うになりましたね。
井土:当時、シネクラブ(アテネフランセ)でバイトしてまして、
ピンク四天王と言われた人たちの特集上映をやったとき、瀬々監督
と出会いました。その頃たまに映画評を書いてて、それを瀬々さん
がチェックしててくれていて、面白いって褒めてくれたんです。で、
調子に乗って、助監督でも何でもいいんで現場やらせてくださいっ
て直訴したんです。そしたら、監督に「君は文章上手いから、ホン
書いてみろ」って言われたんです。

Q:ピンク映画はちょっと特殊なジャンルだと思いますが、最初か
ら上手く書けたんでしょうか?
井土:いや、これは苦労しました。ぜんぜんOKでなくて。もう右
も左もわからないでやってました。最終的に監督が直したものを見
て、なるほど、と。ピンクなんて、ちょっと面白くて、濡れ場があ
ればいいんじゃないかって、どこかでナメていたんですね。男と女
がどう出会って、どういう感情のすり合わせがあって、体を開きあ
うところまで行くのかということが、感情の流れとして描けてない
とダメなんだということ、人間の関係を描くのがシナリオなんだと
いうことを、ピンク映画のシナリオをやって学びました。


★非日常へ飛躍する瞬間を求めて

Q:98年に「百年の絶唱」が劇場公開されます。これはインディ
ペンデント映画では異例の大ヒットになりました。どうやってヒッ
トにつなげたんでしょうか?
井土:もうチラシ大量に作って、置いてくれそうなあらゆる店にゲ
リラ戦でチラシを撒きました。それでも不安がありました。その当
時はまだインターネットは発展途上だったし、カルチャー誌が元気
な時代で、パワフルな映画が出てきたといって取り上げてくれたの
も大きかったと思います。あとはもう映画が一人歩きしていった、
という感じでした。

Q:映画界を取り巻く状況は、その頃からだいぶ変わったと思いま
す。映画館が次々に潰れたり、若い人が観に来なくなっている現状
を、どうすれば変えていけると思いますか?
井土:うーん、究極的には「教育」なんじゃないでしょうか。テレ
ビとかゲームとか、いろんな遊びがある中で、映画というものは何
なのかということを、身体的に無理矢理にでも叩き込んでいかなけ
れば厳しいんじゃないかと(笑)。
 もうアート系の映画なんかは、近いうちに国家が保護するように
なってしまうかもしれない。でもそれも寂しいですね。古典芸能と
か現代美術みたいなものに近づいてしまうのもちょっと違うなあと。
映画は娯楽でありエンタテイメントであって、だからこそ自由だし、
面白いんだってぼくは思ってますから。芸術性なんて、エンタテイ
メントの中から観客が汲み取るべきものだと思ってます。
 いまはテレビ局主導で予算かけてドーンみたいな映画か、低予算
かのどちらかしかなくて、ぼくはシナリオライターとしてその中間
の仕事をやってきたんですが、そういう映画は難しい時代です。予
算自体が大きいか小さいかに二極化してしまっています。娯楽では
あるんだけど、作り手が冒険や実験もできるような、そういう企画
が少なくなってきていますね。

Q:監督にとって「いい映画」というのはどういうものでしょうか?
井土:内容が面白くてお客さんが来てくれれば素晴らしいことです
よね。知名度が高いタレントが出てるからというのだと続かない。
そのつくり方は早晩淘汰されると思います。作り手は何が面白いの
かを、追求していくしかないんじゃないかと思います。
 ぼくらは散文的な日常を生きているわけですが、その中で映画を
観たり、作ったりするとき、あるいは小説を読んだりするとき、日
常から非日常に飛躍できるような瞬間があると思うんです。そこが
ぼくには面白い。だから、主人公は特殊ではない方がいい。普通の
散文的日常を生きる人間が、あるきっかけで非日常のドアを開けて
しまって、そこから何かが始まり、また日常に戻ってくるんだけど、
いままで見てきた世界とはちょっと違っている、そういうのが好き
です。「千と千尋の神隠し」はそういう映画が持っている本質を上手
く表現したからヒットしたんじゃないですか。

Q:話を伺っていて、映画館で映画を観るということ自体が、日常
から非日常に行く行為だと思いました。
井土:そうですね。でも、いまはもう日常の境目、リアリティとい
うものが希薄になってきています。引きこもりとか、延々ネットや
っているとか、日常的な身体とか生活がもはや感得できないように
なっているんじゃないでしょうか。

Q:非日常が日常になってしまっているような人にとって、映画館
というものの魅力は感じられないのかもしれません。
井土:ぼくらは立ち入り禁止という柵を越えて映画を観にいってい
たわけですから、そういう感覚が失われている人たちに対してどう
手を打てばいいのかはとても難しい問題です。
 例えば、映画の宣伝でも、ネットでサイトのカウンターが伸びて
ますよって言われても実感が湧かない。自分の手でチラシを撒く、
あるいは図書館で本を探すというようなリアル身体的な感覚が、ネ
ットが出てきて去勢されていく怖さは感じています。情報処理能力
は早くなってますが、ネットに使われるようになってはダメです。
映画を観るという行為も同じで、評論家が褒めてるからいい作品と
か、そういうことではなく、自分自身で能動的に動く、自分の座標
軸を持つということが大切で、映画に観られるようになってはダメ
なんだと思います。

★所有を拒む、光と影
Q:自分の映画を映画館で上映するということは、監督にとってど
んな意味を持っていますか?
井土:当然のこと、です。ぼくらはいつもスクリーンで映画を観て
きたわけですし、作ったものをスクリーンにかけるというのは当然
のことだと思っています。映画が何で好きかと考えた時、映画は所
有できないから好きなんだと思うんです。CDとか本とか物は増え
ていくけれど、映画館で大勢の人と映画を観たという体験は記憶の中
にあるもので、個人で所有することはできない。だからこそ、映画館
が好きなんです。だからその代わりにパンフレットを買ったり、チケ
ットを取っておいたりするわけです。それが自分にとってかけがえの
ない体験としての映画の欠片なんです。映画というものは所有を拒む
体験であり、光と影であるわけです。

Q:最後に、いま映画館で観たい映画を1本教えていただけますか?
井土:そうですね、やっぱりソフト化されてないものがいいですね。
うーん、これはしょっちゅう観たくなるんですが挙げるとするなら
アレクセイ・ゲルマン「フルスタリョフ、車を!」ですかね。ぼ
くはこの映画の追っかけなんです。どこかでやると必ず観にいきま
す。3時間半、もう眼が離せない、でも分けわかんない(笑)。もう
映画としかいいようが無い。画面のパワーが半端じゃない。打ちの
めされるんです。あれはぜひ、ジャック&ベティでもやってくださ
い。

Q:「フルスタリョフ」はぼくも観たくてしょうがない映画なので、
支配人に頼んでみます。今日はどうもありがとうございました。


2010年3月27日(土) 
ジャック&ベティにて



<プロフィール>
井土紀州(いづちきしゅう)
1968年 三重県出身。94年よりピンク映画を出発点としてシナリオ
を書き始める。その一方で、映画製作集団スピリチュアル・ムー
ビーズを結成し、自主製作映画を作りつづけている。
主な脚本作品に『雷魚』(97)、『HYSTERIC』(00)、
『MOON CHILD』(03)、『刺青』(07)(以上、監督はすべて瀬々敬久)
『YUMENO ユメノ』(05/監督:鎌田義孝)
『ニセ札』(09/監督:木村祐一)。
監督作品に
『第一アパート』(92)、『百年の絶唱』(98)、
『ヴェンダースの友人』(00)、
日本の戦後左翼史を検証したドキュメンタリー『LEFT ALONE 1』(05)
『LEFT ALONE 2』(05)、『ラザロ』(07)など。


<参考文献>
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