100年後の映画館のために

映画館元副支配人による映画と映画館をめぐるインタビューの記録

2017-07

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いつでも「いきあたりバッチリ」(吉岡逸夫さん)

ドキュメンタリー映画作家の吉岡逸夫さんは、本業は新聞記者。
記者として数々の戦場を取材するとともに、その傍らで本を書き、
映画も撮ってしまうという、常にメディアを横断し続ける表現者です。

「最小限のエネルギーで最大効果を得る」という独自の方法で、
低予算ながら鋭い視点と批評精神あふれる作品を作り続けている
大変ユニークな方です。

今回、私が副支配人時代からお世話になっている先輩から、
吉岡さんを紹介していただくことになり、インタビューしてきました。
どんなことを考えて作っているのか聞いてみました。

----------------------------------------

第1回:吉岡逸夫さん
(新聞記者/ドキュメンタリー映画監督)

★写真の挫折から映画へ
Q:吉岡さんは、本業は新聞記者で、映画も作ってらっしゃいます
が、そもそも映画を作ろうと思ったきっかけを教えていただけます
か?
吉岡:映画との付き合いは実はけっこう古くて、ジャーナリストよ
りずっと前なんだよね。20代の頃、写真をやろうと思って専門学校
に入ったんだけど、ほとんどの生徒は写真屋の息子だったり、カメ
ラ小僧だったり、すでに知識があるわけ。授業もある程度知識があ
るという前提で進むもんだから、まったく知識がない自分はついて
いくのもやっとで本当に辛い思いをした。

Q:最初は写真だったんですね。それで、写真は諦めて映画へ進ん
だんですか?
吉岡:さすがに映画撮ってる奴はいなかったから、スタートは一緒
だし大丈夫だろうと。写真と違って大勢でわいわい言いながら作業
するのも楽しかったしね。それでグループで何を撮るかアイデア出
し合うことになって、自分の脚本が採用されて主演もすることにな
った。

Q:いきなり脚本・主演。すごいですね。どんな作品だったんですか?
吉岡:たしか田舎から出てきたばかりの青年が、銀座で恥をかくと
いうストーリーで、池に落ちたり、店の人に追いかけられたり…
この田舎者はもちろん当時の自分自身。あの頃はコンプレックスの
塊で、そういう自分を表現したかったんだろうね。

Q:当時、映画はよく観ていましたか?
吉岡:友人に映画狂いがいて、そいつに連れられてよく観に行った
なあ。当時特に好きだったのはダスティン・ホフマンの「真夜中の
カーボーイ」。あとは「戦艦ポチョムキン」とか過去の名作を観たの
もこの時期。映画っていうのは本当に凄いものだと思ったね。


itsuo_yoshioka.jpg
撮影:坂本慎平

★ジャーナリズムの世界へ
Q:でもその後、映画の世界へ行くわけではなく、海外青年協力隊
の一員としてエチオピアへ…
吉岡:たまたま新聞で見つけて応募したら受かってしまって。現実
逃避したいという気持ちや、日本とは違う価値観を探したいという
思いがあったんだと思う。それで、エチオピアのテレビ局で働くこ
とになって、ここでカメラマンとして番組制作に関わることになっ
た。

Q:このエチオピアで、大きな影響を受ける人に出会いますね。
吉岡:そう、フォトジャーナリストの岡村昭彦
岡村氏は当時ベトナム戦争の写真で国際的に有名だった。彼に「君
は報道写真を撮ってはいけない。なぜなら技術を覚えてしまったか
らだ」とか「シャッターを押す以前が最も大事だ」なんていきなり言
われてね。じゃあ写真学校で写真を学んできて、エチオピアで報道
やってる自分はいったいなんなんだ、と。つまり自分が全否定され
たわけで、物凄い衝撃を受けた。

Q:でも、報道の世界を諦めなかったのはなぜですか?
吉岡:岡村昭彦に反発したい気持ちがあったんじゃないかな。シャ
ッター以前にすべてが決まるなんて本当か?現場でしかわからない
こともあるのではないか?と。もちろん、岡村氏の仕事は凄いし、
彼の考え方ややり方でしかできないこともあると思うけれど。

Q:その後、現場での体験を記録する独自の方法を編み出しますね。
吉岡:新聞記者になってルワンダに派遣されたとき、他の記者たち
が口々につまらないとか、さっさと取材して早く帰りたいとか言っ
ているのを聞いて、そうかなあ?と。自分は少人数でこんなところ
にいること自体貴重な体験で宝の山ではないかと思ったんだよね。
取材は結果だけ報告すれば終わりだけど、結果に至るプロセスのほ
うがだんぜん面白いわけで、そのことを記録すればいいじゃん、と。
その体験を「漂泊のルワンダ」にまとめたというわけ。

★最小限のエネルギーで最大限の効果を得る方法
Q:新聞記者としてきちんと仕事をし、一方で個人としてそこで起
こったプロセスを本にしてしまう。まさに一石二鳥の方法ですね。
吉岡:常に考えているのは「最小限のエネルギーで最大効果を得る」
ということ。アフガンに行ったときもそう。この時期にアフガンに
いること自体が珍しい、つまり商品価値があると思って、ちょうど
アフガン行きの前に娘の運動会のために買った安いビデオカメラ
(7万)を持ってきていたので、それで取材の合間に遊びがてら映
像を撮ってみようと思いついた。で、同業者である記者たちにイン
タビューしてみたらこれが面白くて。いつでもついでに何ができる
か、を考えているね。イラクで人質になった郡山総一郎さんに取材
したときも、取材と同時にカメラも回して、本と映画(「人質」)
の両方作ったり。

Q:その方法だと、本とか映画とかどんどんできますね(笑)アフ
ガンのときは最初からテーマを決めて作品にしようと思っていたの
ですか?
吉岡:どうせ撮るなら何かテーマを決めて撮ろうとは思っていた。
そこで、自分への問いかけの意味もあって「なぜ戦場に来たのか」
を聞いてみることにした。なぜ死ぬかもしれない戦場にわざわざ来
たのかと。すると、記者によっていろんな動機や思いがあることが
わかってきた。当時、日本映画学校の安岡卓治さんから講師として
呼ばれていたこともあり、生徒たちに現場のリアルな映像を見せた
らいい教材になるのでは、という程度に思っていた。

Q:このときの映像が「アフガン戦場への旅」として劇場公開され
ます。思いつきで撮った映像が劇場公開なんて、なかなかあり得な
い話でね。
吉岡:安岡さんに見せたところこれは映画になるということで、当
時のBOX東中野の支配人を紹介してくれて、とんとん拍子で進ん
でしまって、こんなに簡単に劇場公開しちゃっていいの?ってびっ
くりした。自分はただ興味あるものにカメラを向けるだけで、作品
にしたいとか作品になるかどうかはあまり意識していない。作品に
なるかどうかは第三者が判断するものだと思うから。本当にたまた
まいい人に出会ったと思う。

Q:その後、ちゃんと予算をかけて映画を撮ろうと思ったことはな
いですか?
吉岡:アフガンの後、映像のクオリティが低いと言われて、30万も
するカメラを貸してくれるという話があったけど、映像はあくまで
も片手間なので、結局いつもの安いカメラを持っていった。本業は
あくまで新聞記者だからね。

Q:新聞記者という立場での仕事と、個人での表現とをどのように
使い分けているのですか?
吉岡:数百万部発行されている新聞で、本音言ったら大変なことに
なるからね。個人の仕事では、個人としての本音を言おうと思って
いる。

Q:新聞では本音や真実は伝わりませんか?
吉岡:意外な事実よりも、もっともらしいウソのほうが伝わるとい
うか、読者は事実よりも物語を求めていると思う。例えば、アフガ
ン人は実際はぜんぜん戦争を怖がってないという事実よりも、戦争
の悲惨さを伝えるニュースのほうが好まれるんだよね。

Q:
映画「戦場の夏休み」では、イラクも意外と安全だということ
を証明するためにお子さんを連れていきましたね。
吉岡:子供を連れて行くといったら周りはみんなびっくりしてた(笑)。
イラクが家族旅行できるくらい安全だなんてことは新聞では書けな
いよね。まあでも、この映画を公開するときにちょうど戦況が悪化
して、興行的には大ダメージを受けたけど(笑)。

Q:本も映画も、本当にいろいろな形で表現をされていますが、ど
んな表現を目指していますか?
吉岡:目指しているのは「プロの素人」。その辺のオバちゃんが見
て感じるような感覚で表現したい。カンボジアに行ったときポル・
ポトのことも知らなくて、現地で博物館に行って勉強した(笑)。で
も、その程度の知識でも見えてくることはあるわけで、そういう視
点を大切にしたい。

Q:
「シャッター以前」という岡村さんへの反発から生まれた考え
方なんでしょうか?
吉岡:確かに岡村昭彦からはあらゆる面で影響を受けていると思う。
ジャーナリストの役割は、火事場の最前線に行って見えない後の人
たちに事実を伝えることだと思う。岡村昭彦にこんなエピソードが
ある。北ベトナムの取材のときにカメラを捕られてしまって写真が
撮れなくなったとき、イラストを描かせて状況を伝えた。伝えるた
めには手段を選ばない、これこそジャーナリストの使命だと思う。
自分も映像も文章もなんでもやる。伝えるためには手段は選ばない。

★それでも映画館はなくならない
Q:映画を作る側として、映画館に対する意見や期待することなど
ありますか?
吉岡:自分の経験から言うと、映画館というのはドンブリ勘定です
ごくルーズな感じがする。例えば、こっちから請求しないと支払わ
れないとか(笑)。出版業界ではそういうことはまずあり得なくて、
もっとビジネスライク。別の見方をすれば、映画業界は人と人との
情で成り立っているような部分があるんじゃないかな。まあ、経営
的に厳しいというのが理由だろうけど…

Q:映画業界全体についてはどんな印象をお持ちですか?
吉岡:テレビもそうだけど、ADやって助監督やってようやく監督…
みたいに下積みが重視されたり、この道一筋みたいな職人的なこと
が尊ばれる風潮が根強い世界だと思う。日本人はそういうのが好き
なんだろうね。以前、テレビに2週間の海外取材でドキュメンタリー
作ると提案したら、そんな短期間ではあり得ないと言われた。下調
べもちゃんとして、腰を据えてじっくり時間をかけて取り組まない
といいものはできないって考えるんだろうね。そういえば、NHK
の人が映画を観てくれて、この映画はNHKでは捨ててしまうNG
映像でできていると言ってくれて、褒め言葉だと思った(笑)

Q:劇場で自分の作品を上映するということについて、特別な思い
はありますか?
吉岡:劇場はブランドだと思う。ブランド力のある劇場で上映する
と作品にハクがつくし、その後の興行の規模が決まってくる。だか
らつまらないものでも、有名な劇場で公開されると、その後全国で
公開されたりする場合があるよね。

Q:正直なところ、映画で儲かりましたか?
吉岡:興行的には赤にはなってなくて、ちょっとだけ黒字。むしろ
公開後のDVDの売上げのほうが大きい。本を出すのと同じように、
形として残したいのでDVDは作りたい。でも公開するときはDVD
を作るかどうかは決まっているわけではないので、その辺も含めて
公開できるとありがたいんだけどね。

Q:映画好きな人はよく「映画は映画館で観るもの」といいますが、
どうお考えですか?
吉岡:こだわり無いなあ。スクリーンで観るのは、大勢の人と一緒
に映画に陶酔するという点で「お祭り」のようなものでしょ。自分
はお祭りに参加したいわけでも、映画に陶酔したいわけでもなく、
作り手の「心」が知りたい。だからスクリーンでもテレビでもどっ
ちでもいい。写真でもオリジナルプリントじゃないとダメとか言う
人がいるけれど、自己満足みたいなもののような気がする。自分は
雑誌のグラビアでも全然OK。

Q:
ジャック&ベティみたいなミニシアターはどこも厳しい状況で
すが、今後映画館はどうなっていくと思いますか?
吉岡:日本は戦後と違ってお祭りがいっぱいあるから、その中で映
画を観に来る人が少なくなるのは当然だろうね。インドには娯楽が
少ないから映画があれだけ盛り上がってるわけで。でも、規模が小
さくなっても、映画を観たいという欲求はなくならないだろうし、
映画館が無くなることはないと思う。新聞も厳しいけれど無くなら
ないでしょう。

Q:今後の予定などありましたら教えてください。
吉岡:まったくどうなるかわからない。映像で表現するかもしれな
いし、ペンで表現するかもしれない。いつでも「いきあたりバッチ
リ」だから(笑)。でも、とりあえず幾つか本の企画が進んでいる
ので、近々出版する予定です。

2010年2月14日 海浜幕張にて



<プロフィール>
愛媛県岩城島生まれ。米国コロンビア大学大学院ジャーナリズム科
修了。青年海外協力隊員としてエチオピアに3年暮らす。カメラマ
ン生活約15年を経て、現在は新聞記者。2008年より(社)青
年海外協力協会理事。東欧の激動、湾岸戦争、カンボジア、ルワン
ダ、アフガン、イラクなど、約60カ国を取材。93・94年東京
写真記者協会賞、96年開高健賞を受賞。著書に「なぜ記者は戦場
に行くのか」「漂泊のルワンダ」「イスラム銭湯記」など多数。ド
キュメンタリー映画「笑うイラク魂」「アフガン戦場の旅」「戦場
の夏休み」などを監督。



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コメント

世の中の多くの出来事に決まりきったイメージを持っているかを考えさせられました。
情報は確かに結果だけを羅列させる一方的さを持っている。なのに、私達情報の受け手は「百聞は一見するまでも無い」といわんばかりに、目にしたことのないものでも、知りもしない人でも、その一方的な情報だけを受け入れてしまうことが多いような。。。なんだか、先入観に先入観を植えつけられていることが本当に多くあるように思えます。
吉岡さんのように、先入観も決め付けもない柔軟な視野を持つことを大切にしたいと思うとともに、今後も吉岡さんの活躍を願いたいナァと思いました。


コメントありがとうございます。本当におっしゃるとおりですね。吉岡さんは、どこまでに自由になれるのかを追求するのが人間の使命ではないか、というようなこともおっしゃっていました。既成の概念に囚われないそんな見方が自分もできたらなと、とても勉強になったインタビューでした。

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