100年後の映画館のために

映画館元副支配人による映画と映画館をめぐるインタビューの記録

2017-11

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映画と舞踏の中の<死>を見つめて(岩名雅記さん)

今回は2回に分けて、岩名雅記さんのインタビューをお届けします。
岩名さんは、現在、渋谷アップリンクで公開されている劇映画『夏の家族』の監督。
本業は、フランスを舞台に国際的に活躍している舞踏家でもあります。
4年前公開された監督デビュー作『朱霊たち』を観て、普通の映画とは一味違った
感覚を味わって以来、僕の中で気になる存在であり続けてきました。
そんな岩名監督が新作を引っさげて来日中ということで話を聞いてきました。

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第19回: 岩名雅記さん(『夏の家族』監督、舞踏家) 前編

『夏の家族』公式サイト
natufamily_flyer01.jpg
<上映情報>
『夏の家族 A Summer Family』
(2010年/日本/78分/モノクロスタンダード)
渋谷UPLINK Xにて絶賛上映中!
・上映中~10/29(金) 15:00/18:50
・10/30(土)~11/12(金) 15:00

※10/30(土)~11/5(金)は、1階UPLINK FACTORYにて連日13:15から上映あり
詳しくはコチラへ


★ 筋書きのない映画作り
Q: 本作『夏の家族』の構想はいつ頃浮かんだのでしょうか?

岩名:
前作『朱霊たち』の制作中から構想はあって、撮影が終ってすぐ準備に入りまし
た。前作では、僕が映画の現場にまだ慣れていないこともあり、カメラのアングルや照
明など技術的な面でフランス人のスタッフに頼ってしまいました。ですので、次回作で
は撮影全体も含めて自分自身で好きなように作ってみたいという思いがありました。

Q:限られたスタッフで、自分で自由にできる体制でやろうということだったんでしょ
うか。

岩名:少人数体制をとったのは、予算的な面が大きいです。あと、日本人のチームでや
りたかったという思いもありました。言葉や国民性の違いは大きいですから。

Q:前作もそうでしたが、今回の作品もわかりやすい物語があるわけではなく、物語が
生まれる前の断片的なイメージで全体が構成されているといいますか、観る人によって
は難解と受け取られる作品ではないかと感じました。このような作品は、観る側はそれ
なりに覚悟と体力がいりますが、作る側も監督の中にあるイメージを共有して作ってい
くという作業は大変だったのではないでしょうか?

岩名:普通の映画のように、まず出来上がった台本があり、画コンテがあって、カッ
ト割やアングルが決まっていて、その通りに撮ればできるというやり方とはだいぶ違
いました。できあがった映像を粗編集してみて、ドラマチックな起伏や説得力のある
画が足りない部分は再撮影が必要でしたし、またその逆の場合もあります。例えば、
最後のシーンで、カミムラ(主人公)が沼で鏡を胸に持って横たわっているシーンで、
鏡が光を乱反射して光の中に包まれているような面白いカットが撮れたんです。この
画をうまく使えないかと考え、できた画からプロットを膨らませるというようなやり
方もありました。この二つの方法で作っていったので、結果的に当初考えていたもの
からはだいぶ変わっていきました。

Q:考えながら作っていったということでしょうか?

岩名:そうですね。あがってきたフィルムを観て、こんなはずじゃなかったとか、こ
れは結構いいなとか、いろいろ発見があるわけです。ですので、撮影も再再再再再…
もう何個「再」が付くのかわからないくらい行ないました。

Q:フィルム代も馬鹿にならないのでは?

岩名:前作の尺が104分で、フィルムを回したのが6時間くらいなのに対し、今回は
79分で回したのは同じく6時間ですから、2割か3割増しという感じです。

natunokazoku03.jpg
岩名雅記監督。UPLINKにて。上映には必ず立ち会う。


★ 人間も自然も等価である
Q:ノルマンディの草木や動物など、自然を撮ったシーンが印象的でした。<自然>
は本作品を理解する上で重要なキーワードですね。

岩名:僕の踊りに対する考え方が反映されています。二つの考え方の層があるのです
が、まず一つは、人間は脳が発達しているため自然界の中で支配的な立場にいますが、
基本的に動物や植物など周囲の生命も人間の生命も同じなんだというメッセージです。
もう一つは、ヒトの体も頭脳をはじめ知的な部分が行動を支配していますが、ウンコ
もするしセックスもするということも含めて全体としてヒトなわけで、そういうこと
を忘れてしまってはいけないというメッセージです。今の社会全体が知的な方向、
あるいは上昇志向的な方向に進んでいっていますが、人間には知性ではなく野生的な
部分があるということ。そして上昇志向に対しては、「退行志向」といいますか、もっと
簡単に言えば勝つだけでなく、負けることも大事だということ、そういう思いが込め
られています。野球の王さんがホームランを打ったときバンザイしてベースを廻って
いたことがあって、お兄さんがお前は打たれた投手のことを考えたことがあるのか、
そのことを考えながらベースを廻れと言われてそれ以降は地味なベースランニングに
なったという逸話があるんですが、この話は負け志向の大切さを象徴的に表している
と思います。

Q:その考え方は、岩名さんの人生の経験から導き出されたものでしょうか。

岩名:そうです。僕の人生は負け人生ですから。でもある時からそれがおかしなことで
はなくて、勝つ者もいれば負ける者もいる。うまくいく時もあればいかない時もある、
それを含めて人間、人生だと思えるようになったんです。むしろ、勝つことばかりに
拘って自己破綻してしまうほうが恐いですね。負け続けてきたからこそ強くなれたん
だと思います。

Q:
映画作りに対する原点は、舞踏家になるずっと前に、映像に関わりたいと思って
映画会社に入ろうと思いながらもかなわなかったという挫折の経験があるのでしょうか?

岩名:僕が就職活動をした昭和40年代初めという時代は、日活以外のいわゆる大手5社
(松竹、東宝、大映、新東宝、東映)は斜陽になっていました。それで結局テレビ局に
入ったんですが、テレビ局も制作全盛の時代はすでに終わり、制作は全部下請けに出す
という状況になりました。そういう状況を読み取り切れなかったというのは、確かに負
けといえば負けかもしれませんね。

Q:それで踊りで身を立てようと…

岩名:いや、踊りは身を立てるなんて世界ではないですよ。踊りだけで生活できる人
なんて皆無じゃないでしょうか? 僕の場合は、外国に行ったということ、しかも
日本人であるということが強みになったんです。日本は長い歴史を持っているし、
ヨーロッパの人にとって日本人は神秘的な面を持っていてリスペクトしてくれるん
です。そういう人たちに舞踏という日本のアートを受け入れてもらえたことで、なん
とか仕事がやれているんだと思います。

natunokazoku01.jpg


★映画の死、舞踏の死

Q:なぜ舞踏家である岩名さんが、映画を撮らねばならなかったのでしょうか。

岩名:それはいろんな人から聞かれることで、いくつか答えられることがありますが
どれも確かなものではなく、いまでも考え続けています。一つは、ずっと昔から映画
を撮りたいと思っていたということ。もう一つは、例えばグレン・グールドは最晩年
にコンサート活動を止めてレコーディングだけに集中しました。グールドは天才にあ
りがちな変人かもしれませんが(笑)、お客さんの前で演奏するのがあまり好きではな
かったんでしょう。ともかくスタジオで録音することでより精緻な演奏を残したかっ
たのでしょう。僕は人前で踊るのが大好きなのでグールドとは違いますが、どこかで
記録を残したいという思いがあったんだと思います。それと最後の理由は映画のフィ
ルムが持っている、一度撮影された映像はそこで時間と空間が停止されて永遠に帰っ
てくることなく、すでに死んだものとして固定されて残されるという<死>の感覚が、
舞踏の感覚に大変通じているのではないかということです。舞踏の身体は、例えば静
止することですごく深いところに降りていく瞬間があって、僕はそれを「からだが見
つめる」と表現しているんですが、そのからだが見つめる瞬間が、映像の<死>と繋
がっているんじゃないかということをいま考えているんです。

Q:一度撮った映像はもう過去になっていて、フィルムは<過去=死>の集積である
ということはよくわかるんですが、舞踏の死の感覚についてもう少し詳しく教えていただ
けますか?

岩名:例えば、体の内部が高速度で高揚してきたり、逆に完全にゆるんだとき、日常
の身体の機能から離れて、静止あるいは沈黙するというか、別の表現で言えば身体が
物質性を帯びていくと感じられる時があります。その瞬間というものは、体の中に本
来ある要素なんですが、日常ではなかなか発見できない体の状態で、その瞬間が舞踏
にはあると考えています。そのように身体が物質に近づく状態を<死>と表現してい
るんです。

Q:
日常の世界で、人間はいろんな制度やシステムの中で生きています。舞踏はそれ
らの窮屈な日常から身体を解き放つことで、人間の本当の意味での存在を見出すとい
うような面があるというわけですね。

岩名:そうですね。私たちは、「人間」という存在が、本来「ヒト」から出発している
ことを忘れがちです。人間の「間」は社会という意味で、つまりは社会的な存在とし
ての「ヒト」ということを表しています。しかし、社会的な存在という前に私たちは
「ヒト」そのものであるわけで、もっと自由でもっといろんな可能性、異なったスピー
ド、リズム…いろんな局面をもっているわけです。しかしながら社会の制約のなかで
生きていかざるを得ない。いわゆる「人間の大人」は、そういう「ヒト」的な部分を
殺がれています。老人と子供にはまだ可能性がありますが、いまの世の中ではそれも
危うくなってきています。その「ヒト」的な部分を回復するのがアートであり、舞踏
であり、願わくば映画であると思うのです。映画において、理解できて、感動できる
ということも大切だとは思いますが、どうも感動すら計算されて作られているものが
多いような気がします。本来のもっとヒトの本質的な部分を回復、開陳すべきではな
いでしょうか。また社会全体がそういう本来的なものを観ないようにしているという
ことも問題だと思います。

★物語や意味からの解放
Q:一般的に、映画は芸術という前に、娯楽であり、物語があって起承転結があるの
が映画だと考えられています。それに対し監督は以前から、物語や意味から映画を解
放したいということをおっしゃっています。今回の作品はそれを実践したということ
でしょうか。

岩名:黒澤明は「映画は画である」と言っています。『野良犬』(1949年)ではたくさん
好きなシーンがありますが、例えば志村喬さんがホテルの階上を見上げている姿が鏡
に映る俯瞰のカットがあって、これは完全に画になっているんですね。こういう素晴
らしい画像を撮りたい、という思いがあります。それから、もっと感覚的な、匂いと
か想像力とか、画にならないものを映像化するとか、そういうことをやりたいと思う
んです。物語を見て理解だけを求めようとすると、そういう感覚的なものが見えなく
なってしまいます。勿体ないことです。

Q:
とすると、近頃多い小説の映画化というのは、岩名さんの考える映画とはもっと
も遠いものではないでしょうか?

岩名:娯楽として物語(ストーリー)を映画化するという意味ではそうですね。でも
小説の歴史をみても人間の「意識の流れ」などを表現した時代があり、作家たちがいま
す。そういうものを映画化するというのは面白いと思いますけどね。

Q:物語重視の娯楽映画が量産されているという現状は、世の中全体として、本質的
なものを見たい、知りたいという欲求がなくなっているということでしょうか?

岩名:自分の撮った映画がより多くの方に観てもらえないというのは残念ですね。
人間が、社会がどんどんつまらなくなってきている。映画にもヒトにももっといろんな
可能性があるのに、それを受け止めようとしない社会の流れが現代です。でも、イン
ディペンデントで映画作りをしている人は、僕と同じような考え方をしている人が多い
のではないかと思いますよ。そういう人たちに望みを繋ぎたいですね。

後編に続く

<プロフィール>
岩名雅記(いわな まさき)
舞踏家、映画監督。 昭和20(1945)年東京馬込生まれ。
69 年TBSを依頼退職して演劇界へ。同69年、劇団人間座で「吸血鬼の研究」
(台本:寺山修司)に出演、72年には土方巽暗黒舞踏派と劇団人間座の提携公演
「骨餓身峠死人葛(ほねがみとうげほとけかずら)」に出演する。以後俳協、劇団
三十人会時代にはテレビ映画「イナズマン」のウデスパー役など声優としても 活動する。
75年師も無く突如単独で名づけようのない身体表現を開始する(「舞踏」を名乗っ
たのはその9年後である)。1980年までに全裸、不動、垂立によるいわゆる
’非ダンス’の実験的パフォーマンスを150回以上に渡って展開する。83年 のアビ
ニオンシャルトレーズ国際演劇祭(仏)参加を機に88年渡仏、「全裸の捨て身と爪
先立ちの危機感(合田成男)」で人々を魅了する、以来日欧米40カ国100都市で
パフォーマンスとワークショップを展開する。2011年まで国際舞踏ワークシ
ョップ「緑のユトーピア」を自宅で年間4回のペースで続けている。一方、2006年
には長篇舞踏劇映画『朱霊たち』で初メガホンを取り、08年にはヨーロッパ版を制
作。戦後の東京を舞台に少年の夢と現実を、フランス・南 ノルマンディの自然を活
かしモノクロフィルムで幻想的に描いた。09年9月にはロンドンで開催されたポル
トベロ映画祭で最優秀映画賞を獲得。さらに、同年 のロッテルダム映画祭をはじめ
8つの国際映画祭に公式招待されるなど、国際的に高い評価を受けた。今回の『夏の
家族』は長編第二作、自らも出演している。 映像・舞踏研究所白踏館主宰。フラン
ス南ノルマンディ在住。

『夏の家族』公式サイト 

<関連作品>
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