100年後の映画館のために

映画館元副支配人による映画と映画館をめぐるインタビューの記録

2017-09

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暗闇のマジックは不滅です(山崎裕さん、渡辺真起子さん)

「トルソ」=首・四肢のない、胴体だけの彫像のこと。
ドキュメンタリーカメラマンの第一人者であり、是枝裕和監督作品などでも知られる
山崎裕さんが満を持して初監督した作品は、映画を知り尽くしたベテランならではの
深みのある演出と実力派俳優の演技が光る逸品。
ジャック&ベティでの公開初日に来館した、山崎監督と主演の渡辺真起子さんに
お話を聞きました。


第16回: 山崎裕さん(『トルソ』監督)、渡辺真起子さん(女優)

t.jpg
『トルソ』
全国ミニシアターで公開中!
上映情報は公式サイトへ


★スクリーンの現実をどこまで信じられるか
Q: 今回「トルソ」を撮った経緯をお聞かせください。

山崎:70年代にドキュメンタリーのカメラマンとしてよく海外に行っていまし
た。ちょうどヨーロッパがフリーセックスやウーマンリブ、ポルノ解禁に沸い
ていて、すごく開放的な空気がありました。そんなときに街のポルノショップ
でたまたま男性の「トルソ」が棚の上にドンと置かれているのを見て衝撃を受
けたんです。そのときの体験を元に、女性の立場からみたセックスとか、男性
目線ではない女性の性意識みたいなものを、トルソを媒介にして描きたいと思
っていました。70年代と現代とでは男女関係も女性の意識も変わってきていま
すが、アングルを変えてみるとまた違ったストーリーが生まれるのではないか
と考えてプロットを書き始めたんです。

Q:山崎さんというとやはり是枝作品の数々の名作を作り出してきた名カメラ
マンというイメージですが、今回監督をされたのはどうしてですか? 監督を
やってみてカメラマンとはどう違いましたか?

山崎:内容的に僕の個人的なファンタジーなので、他人がやるより自分で監督
やったほうがいいのではないだろうかと思いました。元々、ドキュメンタリー
で演出もやっていたので、今回も監督をしたというよりカメラマンとして演出
も兼任したという意識でやりました。自分のカメラを直接的に自分の表現の道
具にしてみたという感覚でした。

Q:渡辺さんは脚本を読んでどう思われましたか?

渡辺:先に話は聞いていて、それから脚本を読ませて頂いて、山崎さんが見た
い世界があるということがよくわかりました。これまでも何度か一緒に仕事を
していたので、入りづらさは特にありませんでした。

Q:登場人物はそれぞれいろんな背景を抱えた存在ですが、細かい部分は描か
れていません。

山崎:人間は一面的ということはあり得なくて多面的な存在です。人の感情の
奥底や過去は氷山の下の部分のように見えませんが、それを説明する芝居では
なく、その場その場でどんな感情で妹と向き合うか、この部屋でどう生きるか
ということを積み重ねていくことで、その背景にあるものを感じさせる演出を
したいと考えていました。

Q:主人公のヒロコは、トルソで自分を慰めるという人に言えない愉しみを持
っています。渡辺さんは実際に、そういうヒロコ的な面はありますか?

渡辺:私は自分を分析したりはしません。役をもらって、それが自分に似てい
ると思うことはまずないです。人から言われて気がつくことはありますが、台
本の段階でひとりで考えすぎてしまうと外してしまうこともありますから。た
とえ、渡辺真起子という人物を演じたとしても、それは私ではありません。カ
メラが介入している時点で、私の思う私ではなくなる気がします。

山崎:つまり、こういう女がいるかもしれないという存在をどう作れるかとい
うことなんです。そこには、ヒロコというストーリー上でイメージされる部分と、
真起子がそれを創造している部分と、真起子自身の部分とが重なりあって出て
くるものなんです。だから、芝居というものは、ヒロコを演じきったとか、自
分自身を出し切ったとか、ということではないんです。観ている人が画面に写
っていることを信じられるかどうか、ということなんだと思います。

Q:とすると、劇映画とドキュメンタリーの境目というのは……

山崎:カメラマンとしてはないですね。どちらも写っているものを信じられる
かどうかという点では同じです。

★映画、最高!な記憶
Q:監督が映画の道に進んだきっかけを教えてください。

山崎:小学生のときから映画が好きで、映画館に一人で行っていました。父親
が映画好きだった影響があります。中学一年の時にはタダで映画観れるからと
いうことで評論家、二年の時に監督、三年の時にはプロデューサーになるのが
夢でした。ちょうどその時代に『羅生門』がヴェネチア国際映画祭で賞を取っ
たりして、映画で一番偉いのはプロデューサーだと思っていたからです。高校
にあがった時には映画のことがもう少し具体的にわかるようになって、自分は
理工系だから技術系のことをやろうと思って、それならカメラマンをやろうと
決めたんです。

Q:映画ではなくドキュメンタリーに進んだのはどうしてだったんですか?

山崎:60年代はヌーヴェルバーグやアヴァンギャルド、シュールレアリスム、
ハプニング、ポップアート……など、とにかくいろんなものがぐちゃぐちゃに
なっていた時代で、自分にとってはアヴァンギャルド、シュールレアリスム、
ドキュメンタリーというのが三種の神器のようなものでした。そんな時代でし
たから、撮影所が作るようなものには興味はなく、現場で撮った映像で作品を
作るドキュメンタリーは、カメラの力を生かせるという点で面白そうだと思っ
たんです。

toruso01-1.jpg
ジャック&ベティでの初日舞台挨拶の様子。


Q:渡辺さんはいかがですか? やはり小さい頃の映画館体験が役者の道に進
むきっかけになったのでしょうか?

渡辺:いえ、小学校のときの演劇の授業がきっかけです。さすがに小学生の女
の子が一人で映画館に行くということはありませんでした。でも、中学校の時
は学校さぼって、ミュージカルの特集を観にいったりしました。映画館の暗闇
で映画を観るというのは気持ちいいんだということをこのとき知りました。当
時は三鷹に住んでいたので、三鷹オスカーに行ったりしてました。

山崎:僕はDVDで映画を観るのは好きじゃないんです。勉強として観なきゃ
いけないときにしかDVDでは観ません。やっぱりスクリーンで観ないと観た
気がしないんです。映画館には<暗闇のマジック>があるんです。

Q:お二人の思い出に残っている映画体験について教えてください。

山崎:『勝手にしやがれ』を観にいったとき、僕の席の二つ前くらいの場所に、
長沢節さんが派手な服を来て、お弟子さんを引き連れて観に来てたんです。映
画が終った瞬間に節さんがすっと立ち上がってこう言ったんです。「オー!、戦
後最高!」って。これは忘れられません。そう言わせる何かが当時の映画体験
にはあったんです。やはり映画館というものは、行けば何かと出会える、忘れ
られない体験ができる、そういう場所だと思うんです。

渡辺:雑誌の「BRUTUS」で、<ブルータス座>という、自分たちの観たい映画
を映画館で上映しようという企画があったんです。そのときは『グラン・ブルー』
のあの青を大きなスクリーンで観たいだろうと呼びかけたところ、劇場は超満
員になって、始まったとき物凄い拍手と歓声が起きたんです。そんな光景は今
まで体験したことがありませんでした。昔、映画館のいい時期はこんな感じだ
ったのかと思わせるような盛り上がりでした。こんなふうに誰かが観たいとい
うことから始まることもあるんだと思いました。

★映画館は滅びるか
Q:最後に、映画館や映画はこれからどうなっていくか、ということについて
お聞きしたいのですが。ちょっと大雑把な質問ですみません。

山崎:最近は、以前は単館系だけで上映されていた作品も、当たりそうな作品
はシネコンが持っていってしまうので、ミニシアターはこれからますます厳し
くなると思います。もはやミニシアターは昔の名画座のように古い作品を上映
したり、特殊な映画を特集したり、そういう形でしか生き残れないのではない
でしょうか。そうなってはほしくないですが、もしミニシアターが潰れたとし
ても、シネコンという形で映画館は生き残ると思います。映画館の持つ<暗闇
のマジック>は無くならないと思うんです。これはDVDやテレビでは体感で
きない、特別なものだと思います。個人的にはシネコンで大勢入るような作品
は観に行きたくないですね、顔のあるミニシアターが好きですから。

渡辺:
映画館が無くなるとは思っていません。あまり悲観的に考えすぎると本
当にダメになってしまうので、誰かが「絶対映画館行ったら楽しいよ!」とか「ジ
ャック&ベティが好き!」というように言い切ることから何かが始まるんじゃ
ないでしょうか。

Q:実際、他の映画館の人たちは、映画館はもうダメだと悲観的になっている
んでしょうか。

渡辺:いま全国の映画館主たちで、自分たちは安泰だと思ってる方がいるとは
思えないのですが…。

Q:いえ、確かに安泰だと思っている人たちはほとんどいないと思いますが、
どんなに厳しくても映画への愛とか信頼はゆるぎないので、「映画館が滅びる」
などというネガティブなことを言う人間はいないのではないかと思ったんです。
だからあえてこのブログでそういうことを言ってみてるんです。映画とか映画
館というものが必ずしも絶対的なものではなくて、必ずしも無くなったらいけ
ないものではないということを認識して、その存在理由を考えていかなければ
いけない時期に来ているんじゃないかなと思うんです。

渡辺:うーん、難しいですね。でも、やっぱり作り手の顔や、その映画をかけ
る人たちの顔が見えるような映画館はこれからも残っていくんじゃないでしょ
うか。それと、映画祭に行くと、お客さんたちはみんな映画体験を共有してい
る喜びを感じているように思えます。この体験と喜びがもう少し日常の中に浸
透していけばいいのになと思います。

Q:こんな答えのないことを聞いてしまってすみません。これからも考え続け
なければいけないことだと思います。いろいろ参考になりました。今日はあり
がとうございました。

2010年9月11日(土) ジャック&ベティ応接室にて

<プロフィール>
山崎裕(やまざき ゆたか)
1940年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、フリーの撮影助手を経て長
編記録映画『肉筆浮世絵の発見』(1965年)でフィルムカメラマンとしてデビュー。
以降、「遠くへ行きたい」、「素晴らしき世界旅行」などのテレビドキュメンタリー
のほか、CMや記録映画などで活躍。99年、是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』
で初めて劇場用映画の撮影を手掛け、以降『大丈夫であるように―Cocco終らな
い旅』(08年)迄のすべての是枝作品を担当した。その後も『沙羅双樹』(河直
美監督)や『俺たちに明日はないッス』(タナダユキ監督)など多数の映画作品
に関る。本作品は初の監督作品となる。

渡辺真起子(わたなべ まきこ)
1986年よりモデルとして活動をスタート。88年『バカヤロー!私、怒ってます』
(中島哲也監督)にて映画デビュー。その後、『M/OTHER』(諏訪敦彦監督)、『贅沢
な骨』(行定勲監督)、『カナリア』(塩田明彦監督)、『殯の森』(河直美監督)など、
世界的にも評価の高い数々の作品に出演。近作に『愛のむきだし』(園子温監督)、
『ワカラナイ』(小林政広監督)など。公開待機作に、『ヘヴンズストリー』(瀬々
敬久監督)、『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』(東陽一監督)などがある。

『トルソ』公式サイト
 


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