映画と舞踏の中の<死>を見つめて(岩名雅記さん)
今回は2回に分けて、岩名雅記さんのインタビューをお届けします。
岩名さんは、現在、渋谷アップリンクで公開されている劇映画『夏の家族』の監督。
本業は、フランスを舞台に国際的に活躍している舞踏家でもあります。
4年前公開された監督デビュー作『朱霊たち』を観て、普通の映画とは一味違った
感覚を味わって以来、僕の中で気になる存在であり続けてきました。
そんな岩名監督が新作を引っさげて来日中ということで話を聞いてきました。
-------------------------
第19回: 岩名雅記さん(『夏の家族』監督、舞踏家) 前編
『夏の家族』公式サイト

<上映情報>
『夏の家族 A Summer Family』
(2010年/日本/78分/モノクロスタンダード)
渋谷UPLINK Xにて絶賛上映中!
・上映中~10/29(金) 15:00/18:50
・10/30(土)~11/12(金) 15:00
※10/30(土)~11/5(金)は、1階UPLINK FACTORYにて連日13:15から上映あり
詳しくはコチラへ
★ 筋書きのない映画作り
Q: 本作『夏の家族』の構想はいつ頃浮かんだのでしょうか?
岩名:前作『朱霊たち』の制作中から構想はあって、撮影が終ってすぐ準備に入りまし
た。前作では、僕が映画の現場にまだ慣れていないこともあり、カメラのアングルや照
明など技術的な面でフランス人のスタッフに頼ってしまいました。ですので、次回作で
は撮影全体も含めて自分自身で好きなように作ってみたいという思いがありました。
Q:限られたスタッフで、自分で自由にできる体制でやろうということだったんでしょ
うか。
岩名:少人数体制をとったのは、予算的な面が大きいです。あと、日本人のチームでや
りたかったという思いもありました。言葉や国民性の違いは大きいですから。
Q:前作もそうでしたが、今回の作品もわかりやすい物語があるわけではなく、物語が
生まれる前の断片的なイメージで全体が構成されているといいますか、観る人によって
は難解と受け取られる作品ではないかと感じました。このような作品は、観る側はそれ
なりに覚悟と体力がいりますが、作る側も監督の中にあるイメージを共有して作ってい
くという作業は大変だったのではないでしょうか?
岩名:普通の映画のように、まず出来上がった台本があり、画コンテがあって、カッ
ト割やアングルが決まっていて、その通りに撮ればできるというやり方とはだいぶ違
いました。できあがった映像を粗編集してみて、ドラマチックな起伏や説得力のある
画が足りない部分は再撮影が必要でしたし、またその逆の場合もあります。例えば、
最後のシーンで、カミムラ(主人公)が沼で鏡を胸に持って横たわっているシーンで、
鏡が光を乱反射して光の中に包まれているような面白いカットが撮れたんです。この
画をうまく使えないかと考え、できた画からプロットを膨らませるというようなやり
方もありました。この二つの方法で作っていったので、結果的に当初考えていたもの
からはだいぶ変わっていきました。
Q:考えながら作っていったということでしょうか?
岩名:そうですね。あがってきたフィルムを観て、こんなはずじゃなかったとか、こ
れは結構いいなとか、いろいろ発見があるわけです。ですので、撮影も再再再再再…
もう何個「再」が付くのかわからないくらい行ないました。
Q:フィルム代も馬鹿にならないのでは?
岩名:前作の尺が104分で、フィルムを回したのが6時間くらいなのに対し、今回は
79分で回したのは同じく6時間ですから、2割か3割増しという感じです。
岩名雅記監督。UPLINKにて。上映には必ず立ち会う。
岩名さんは、現在、渋谷アップリンクで公開されている劇映画『夏の家族』の監督。
本業は、フランスを舞台に国際的に活躍している舞踏家でもあります。
4年前公開された監督デビュー作『朱霊たち』を観て、普通の映画とは一味違った
感覚を味わって以来、僕の中で気になる存在であり続けてきました。
そんな岩名監督が新作を引っさげて来日中ということで話を聞いてきました。
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第19回: 岩名雅記さん(『夏の家族』監督、舞踏家) 前編
『夏の家族』公式サイト

<上映情報>
『夏の家族 A Summer Family』
(2010年/日本/78分/モノクロスタンダード)
渋谷UPLINK Xにて絶賛上映中!
・上映中~10/29(金) 15:00/18:50
・10/30(土)~11/12(金) 15:00
※10/30(土)~11/5(金)は、1階UPLINK FACTORYにて連日13:15から上映あり
詳しくはコチラへ
★ 筋書きのない映画作り
Q: 本作『夏の家族』の構想はいつ頃浮かんだのでしょうか?
岩名:前作『朱霊たち』の制作中から構想はあって、撮影が終ってすぐ準備に入りまし
た。前作では、僕が映画の現場にまだ慣れていないこともあり、カメラのアングルや照
明など技術的な面でフランス人のスタッフに頼ってしまいました。ですので、次回作で
は撮影全体も含めて自分自身で好きなように作ってみたいという思いがありました。
Q:限られたスタッフで、自分で自由にできる体制でやろうということだったんでしょ
うか。
岩名:少人数体制をとったのは、予算的な面が大きいです。あと、日本人のチームでや
りたかったという思いもありました。言葉や国民性の違いは大きいですから。
Q:前作もそうでしたが、今回の作品もわかりやすい物語があるわけではなく、物語が
生まれる前の断片的なイメージで全体が構成されているといいますか、観る人によって
は難解と受け取られる作品ではないかと感じました。このような作品は、観る側はそれ
なりに覚悟と体力がいりますが、作る側も監督の中にあるイメージを共有して作ってい
くという作業は大変だったのではないでしょうか?
岩名:普通の映画のように、まず出来上がった台本があり、画コンテがあって、カッ
ト割やアングルが決まっていて、その通りに撮ればできるというやり方とはだいぶ違
いました。できあがった映像を粗編集してみて、ドラマチックな起伏や説得力のある
画が足りない部分は再撮影が必要でしたし、またその逆の場合もあります。例えば、
最後のシーンで、カミムラ(主人公)が沼で鏡を胸に持って横たわっているシーンで、
鏡が光を乱反射して光の中に包まれているような面白いカットが撮れたんです。この
画をうまく使えないかと考え、できた画からプロットを膨らませるというようなやり
方もありました。この二つの方法で作っていったので、結果的に当初考えていたもの
からはだいぶ変わっていきました。
Q:考えながら作っていったということでしょうか?
岩名:そうですね。あがってきたフィルムを観て、こんなはずじゃなかったとか、こ
れは結構いいなとか、いろいろ発見があるわけです。ですので、撮影も再再再再再…
もう何個「再」が付くのかわからないくらい行ないました。
Q:フィルム代も馬鹿にならないのでは?
岩名:前作の尺が104分で、フィルムを回したのが6時間くらいなのに対し、今回は
79分で回したのは同じく6時間ですから、2割か3割増しという感じです。

岩名雅記監督。UPLINKにて。上映には必ず立ち会う。
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その先に夢の実現を信じて(みひろさん)
第18回:小沼雄一さん(『nude』監督)、渡辺奈緒美さん(主演女優)、みひろさん(原作者・女優)

『nude』 シネマ・ジャック&ベティにて絶賛上映中!
<10/9(土)~10/15(金)>16:00~17:50
<10/16(土)~10/19(火)>17:40
公式サイトはコチラへ
★一人の女性の成長物語として
Q:(監督へ)いま、全国の劇場で公開が始まっていますが、お客さんの反応はいかがで
しょうか? 監督はこの映画をたくさんの女性に観てほしいとおっしゃっていますが、
女性の反応はいかがですか?
小沼:反応は、性別、年齢、職業によっていろいろありますね。女性もたくさん観にき
てくれていて、ネット上でたくさんコメントをくれています。
Q:(みひろさんへ)ご自身の人生を描いた小説が映画化されたわけですが、映画館で実
際に作品を見たときの感想はいかがでしたか?
みひろ:ある人(作家の新堂冬樹氏)から小説を書いてみないかと言われて、書き始め
たんです。書いているときは、映画になったらいいなとは思っていましたけど、本当に
実現するとは思っていませんでした。文章を書くのは本当に大変で、途中で何度も止め
ようと思ったんですけれど、最後まで逃げないでやり抜いたからこそ、こうして映画化
や漫画化につながったので、よかったなと思いました。
Q:小説の執筆はかなり苦労されたんですか?
みひろ:書けるときはスラスラ書けたんですが、どう書けばいいのかわからなかったり、
表現が見つからなかったりしたときは本当に苦しかったです。それに他の仕事もしなが
らだったので時間的にも厳しい中、プライベートの時間もずいぶん削ってようやく書き
上げました。
Q:自分の人生を、映像を通じて客観的に見ることで見えてきたことなどはありましたか?
みひろ:初心を思い出させてもらいましたね。好きだからと思って夢中で仕事をしてき
た当時のこととか、辛かったりしたこととか、そういう体験を振り返ってあらためて前
向きな気持ちにさせてもらいました。いろんな情報が入ってきて、ちょっとひねくれた
自分になってしまったりしたこともあったんですが、そういった負の感情をリセットす
ることができたと思います。
みひろさん、渡辺奈緒美さん、小沼監督

『nude』 シネマ・ジャック&ベティにて絶賛上映中!
<10/9(土)~10/15(金)>16:00~17:50
<10/16(土)~10/19(火)>17:40
公式サイトはコチラへ
★一人の女性の成長物語として
Q:(監督へ)いま、全国の劇場で公開が始まっていますが、お客さんの反応はいかがで
しょうか? 監督はこの映画をたくさんの女性に観てほしいとおっしゃっていますが、
女性の反応はいかがですか?
小沼:反応は、性別、年齢、職業によっていろいろありますね。女性もたくさん観にき
てくれていて、ネット上でたくさんコメントをくれています。
Q:(みひろさんへ)ご自身の人生を描いた小説が映画化されたわけですが、映画館で実
際に作品を見たときの感想はいかがでしたか?
みひろ:ある人(作家の新堂冬樹氏)から小説を書いてみないかと言われて、書き始め
たんです。書いているときは、映画になったらいいなとは思っていましたけど、本当に
実現するとは思っていませんでした。文章を書くのは本当に大変で、途中で何度も止め
ようと思ったんですけれど、最後まで逃げないでやり抜いたからこそ、こうして映画化
や漫画化につながったので、よかったなと思いました。
Q:小説の執筆はかなり苦労されたんですか?
みひろ:書けるときはスラスラ書けたんですが、どう書けばいいのかわからなかったり、
表現が見つからなかったりしたときは本当に苦しかったです。それに他の仕事もしなが
らだったので時間的にも厳しい中、プライベートの時間もずいぶん削ってようやく書き
上げました。
Q:自分の人生を、映像を通じて客観的に見ることで見えてきたことなどはありましたか?
みひろ:初心を思い出させてもらいましたね。好きだからと思って夢中で仕事をしてき
た当時のこととか、辛かったりしたこととか、そういう体験を振り返ってあらためて前
向きな気持ちにさせてもらいました。いろんな情報が入ってきて、ちょっとひねくれた
自分になってしまったりしたこともあったんですが、そういった負の感情をリセットす
ることができたと思います。

みひろさん、渡辺奈緒美さん、小沼監督
傷ついたままではいやだった(リンダ・ホーグランドさん)
<アート>とは何なのか?
「60年安保闘争」という歴史的事件をアーティストの作品と証言で読み直す画期的な
ドキュメンタリー。監督は、数々の日本映画の英語字幕を担当し、
『TOKKO/特攻』(2007年)ではプロデューサーとして関ったリンダ・ホーグランドさん。
これが監督としてのデビュー作となる。
この作品に登場するアートはどれも、芸術の根源的なエネルギーを感じさせる強烈なもの
ばかりだ。アートといえば、いまジャック&ベティのある町、黄金町では町おこしの一環
としてのアートイベントが行なわれている。かたや、個人的な抵抗の表出としてのアート。
かたや、明るく健全で、誰からも親しまれるアート。対照的な二つのアートのあり方につ
いて、監督はどう考えるか聞いてみた。
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第17回: リンダ・ホーグランドさん(『ANPO』監督)

『ANPO』シネマ・ジャック&ベティにて絶賛公開中!
<10/2(土)~10/8(金)>16:30~18:05
公式サイトはコチラ
★アートの衝撃、そしてANPOへ
Q:いまなぜ「安保」なのか、そしてそれをなぜアートという切り口で読み直
そうとしたのかを教えてください。
L・H:私は日本で生まれ、中学生まで日本で暮らしました。西川美和監督が
私のことを、娼婦(日本)とヒモ(アメリカ)の間に生れ落ちた監督と言って
くれましたが、それは日米のねじれた関係の中で生まれ育った者が宿命的に感
じる居心地の悪さです。私は恥ずかしながら、「安保」のことについて何も知ら
ないで育ちました。10歳の時に授業でアメリカが日本に原爆を落としたとい
う事実を知りました。先生が原爆の悲惨さを語り終えたとき、クラスメイトの
視線がいっせいに私に向けられました。このとき私は自分が戦争の加害者の側
に組み込まれたことを初めて自覚したんです。10歳という年齢で、こんな重
い事実は消化しようがありませんでした。勝ったほうの国は、負けたほうの国
の悲惨な事実のことは知りません。勝った側と負けた側でまったく歴史観が違
うんです。その大きな矛盾の中で育ったことが、この映画を作った原点です。
その後、大学はアメリカで学びましたが、ずっと日本映画に関わっていきたい
と思ってきました。そして、これまで多くの日本映画を観て紹介したり、字幕
を書いたりしてきました。あるとき、『にあんちゃん』(59年)ではあんなに
希望に溢れる映画を撮った今村昌平監督が、『豚と軍艦』(61年)では、横須賀
を舞台にものすごく風刺の効いたブラックな作品を作っていることに気づき、
この変化は何なんだろうと思いました。また、政治的なものを撮らない黒澤さん
も、『悪い奴ほどよく眠る』(60年)では露骨に政治汚職を描写していますし、
大島渚監督も安保闘争を題材にした『日本の夜と霧』(60年)を撮っています。
これらの映画から、60年という時代に一体何があったのかと疑問を持ったこ
とが、安保について考えるきかっけになりました。また映画以外でも、
東松照明さんの長崎の写真を見て衝撃を受けて、作品の背景となった戦争や
日米の関係などの歴史をもっと勉強しようと思うようになったんです。
安保闘争のことを知って一番ショックだったのが、国会に警官が500人動員
されて、議員を引きずり出して法案を強行採決し、そのまま50年間内容がま
ったく変わっていないという事実です。アメリカでそんなことが起きたら内乱
が起きます。岸信介首相のバックにはCIAがいましたからそういう事態は起き
ませんでしたが、民主主義を信じていた当時の若者に与えたショックは計り知
れないものがあったはずです。もう一つこの映画を作るきっかけとなったのが、
濱谷浩さんの『怒りと哀しみの記録』を見たことです。この写真集には、建前
なんてなくてホンネの顔をしている日本人が写っていました。その顔はいった
いどこからくるのか?また、中村宏さんの『砂川五番』をテレビで見たときも、
こんな絵が日本にあるのかと衝撃を受けました。これらのアートから感じる
自由さとエネルギーはいったいどこからくるんだろう? これらの答えを探す
中で、60年安保に行き着いたんです。だからアートが先だったんです。アート
がなかったら安保のことを知ろうとは思わなかったかもしれません。アートを
発見することが、そのまま映画を作ることだったんです。
リンダ監督と写真家の石内都さん
「60年安保闘争」という歴史的事件をアーティストの作品と証言で読み直す画期的な
ドキュメンタリー。監督は、数々の日本映画の英語字幕を担当し、
『TOKKO/特攻』(2007年)ではプロデューサーとして関ったリンダ・ホーグランドさん。
これが監督としてのデビュー作となる。
この作品に登場するアートはどれも、芸術の根源的なエネルギーを感じさせる強烈なもの
ばかりだ。アートといえば、いまジャック&ベティのある町、黄金町では町おこしの一環
としてのアートイベントが行なわれている。かたや、個人的な抵抗の表出としてのアート。
かたや、明るく健全で、誰からも親しまれるアート。対照的な二つのアートのあり方につ
いて、監督はどう考えるか聞いてみた。
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第17回: リンダ・ホーグランドさん(『ANPO』監督)

『ANPO』シネマ・ジャック&ベティにて絶賛公開中!
<10/2(土)~10/8(金)>16:30~18:05
公式サイトはコチラ
★アートの衝撃、そしてANPOへ
Q:いまなぜ「安保」なのか、そしてそれをなぜアートという切り口で読み直
そうとしたのかを教えてください。
L・H:私は日本で生まれ、中学生まで日本で暮らしました。西川美和監督が
私のことを、娼婦(日本)とヒモ(アメリカ)の間に生れ落ちた監督と言って
くれましたが、それは日米のねじれた関係の中で生まれ育った者が宿命的に感
じる居心地の悪さです。私は恥ずかしながら、「安保」のことについて何も知ら
ないで育ちました。10歳の時に授業でアメリカが日本に原爆を落としたとい
う事実を知りました。先生が原爆の悲惨さを語り終えたとき、クラスメイトの
視線がいっせいに私に向けられました。このとき私は自分が戦争の加害者の側
に組み込まれたことを初めて自覚したんです。10歳という年齢で、こんな重
い事実は消化しようがありませんでした。勝ったほうの国は、負けたほうの国
の悲惨な事実のことは知りません。勝った側と負けた側でまったく歴史観が違
うんです。その大きな矛盾の中で育ったことが、この映画を作った原点です。
その後、大学はアメリカで学びましたが、ずっと日本映画に関わっていきたい
と思ってきました。そして、これまで多くの日本映画を観て紹介したり、字幕
を書いたりしてきました。あるとき、『にあんちゃん』(59年)ではあんなに
希望に溢れる映画を撮った今村昌平監督が、『豚と軍艦』(61年)では、横須賀
を舞台にものすごく風刺の効いたブラックな作品を作っていることに気づき、
この変化は何なんだろうと思いました。また、政治的なものを撮らない黒澤さん
も、『悪い奴ほどよく眠る』(60年)では露骨に政治汚職を描写していますし、
大島渚監督も安保闘争を題材にした『日本の夜と霧』(60年)を撮っています。
これらの映画から、60年という時代に一体何があったのかと疑問を持ったこ
とが、安保について考えるきかっけになりました。また映画以外でも、
東松照明さんの長崎の写真を見て衝撃を受けて、作品の背景となった戦争や
日米の関係などの歴史をもっと勉強しようと思うようになったんです。
安保闘争のことを知って一番ショックだったのが、国会に警官が500人動員
されて、議員を引きずり出して法案を強行採決し、そのまま50年間内容がま
ったく変わっていないという事実です。アメリカでそんなことが起きたら内乱
が起きます。岸信介首相のバックにはCIAがいましたからそういう事態は起き
ませんでしたが、民主主義を信じていた当時の若者に与えたショックは計り知
れないものがあったはずです。もう一つこの映画を作るきっかけとなったのが、
濱谷浩さんの『怒りと哀しみの記録』を見たことです。この写真集には、建前
なんてなくてホンネの顔をしている日本人が写っていました。その顔はいった
いどこからくるのか?また、中村宏さんの『砂川五番』をテレビで見たときも、
こんな絵が日本にあるのかと衝撃を受けました。これらのアートから感じる
自由さとエネルギーはいったいどこからくるんだろう? これらの答えを探す
中で、60年安保に行き着いたんです。だからアートが先だったんです。アート
がなかったら安保のことを知ろうとは思わなかったかもしれません。アートを
発見することが、そのまま映画を作ることだったんです。

リンダ監督と写真家の石内都さん